勝手気ままにイラストコラム

音楽・芸能ネタのイラストコラム。育児マンガ・水彩イラストは「Suiの水彩日記」にて。

すみません、アイドル甘く見ていました!加藤シゲアキさんの本

先日中学生の長女から「閃光スクランブル」を勧められました。

 

あのジャニーズのグループ、「NEWS」加藤シゲアキさんが書いた本でした。

正直、特に興味があるわけではなく「ああ、そういえば本書いているんだってね!」と読み始めたんですが・・・。

 

読み終わって「アイドルが書いた本」だと思ったことにすみませんと・・・、

いや、アイドルそのものに対して甘く見ていた自分がいたことに、本心で謝りたくなりました。

 

閃光スクランブル」の後に読んだ「ピンクとグレー」、そしてその後の短編集の感想を交えながら紹介しようと思います。

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ピンクとグレー

ピンクとグレー (角川文庫)

ピンクとグレー (角川文庫)

 

 

主人公河田大貴(芸名 河鳥大)と鈴木真吾(芸名 白木蓮吾)は親友だった。

ある日、ひょんなことから読者モデルになり、一緒に芸能界入りした二人。

でもどんどん売れていく「白木蓮吾」と違い、河田はパッとしない。

どんどんすれ違っていく二人・・・そしてとうとうある日、決別する。

数年後に再会したのだけど、なんとその翌日に「白木蓮吾」は死んでしまった。

なぜ?

河田は彼がどう思い、どう生きて、そしてなぜ死ぬことになったのか、「白木蓮吾」を演じなりきることで辿っていく。

 

 

閃光スクランブル」を読んでからこの本を読んだのですが、「ピンクとグレー」が加藤さんのデビュー作です。

 

やはり最初だからか少し文章が読みづらいところはありました。

読み始めるまではもっと字が少なくて、エッセイ的なものかと思っていたんですけど、400字詰め原稿用紙357枚分のボリューム(わざわざ書いてありました)!

それでもどんどん読み進んだのは加藤さんが芸能界でどういうことを感じているのか興味もあったし、実際面白かったからです。

 

同じ芸能界を目指しながらも親友と自分の間にどんどん広がっていく差に対しての焦り。

 でも「白木蓮吾」が才能を認められて売れっ子になるのにも、それなりの理由がある。

 死んだ姉の影響もあり、「表現者であること」を真摯に考えている「白木蓮吾」。

普段から考えていることでアドリブが生まれる。

そんな「白木蓮吾」と自分の差に気がついて河田はハッとする。

 

ここら辺の描写は、実際に加藤さんが芸能界で仕事する上で感じたことなんでしょうか。

 でも「白木蓮吾」が表現者としてストイックになればなるほど・・・色素を持たないメダカがある日消えたように「自分」がどんどんなくなっていく。

 

 親友や彼女と過ごした楽しい時間の描写があるだけに、今の孤独感が浮かび上がります。

 

スターはやっぱり大変だろうな・・・。

 

そして「アイドル」っていうとちょっと軽く思っていたけど、歌やダンスやアドリブなど、それぞれに本当に努力しているんだろうな、とあらためて思いました。

それでも皆努力が報われるわけではないし、事務所の力や数値化できないイメージの良し悪しでちやほやされたり、バッシングされたりするのだから、普通の神経じゃやっていくのは相当辛そうですよね。

加藤さんのように繊細な人はなおさら。

 

でも作家という目で見るなら芸能界はネタの宝庫かもしれませんが。

 

 閃光スクランブル

閃光スクランブル (角川文庫)
 

カメラマンの巧は、一時は才能を開花させ期待されていたが、妻の死をきっかけに刹那的に日々を送っていた。

今やゴシップ写真で生計をたてていた巧が目をつけたのは人気グループアイドルの亜希子。

どうやら彼女は大物俳優と不倫しているらしい。

しかし決定的瞬間を狙う巧は、突発的な出来事から亜希子をつれて逃げるはめになってしまう。

一体どうなってしまうのか。

 

ここに出てくる亜希子は、まるでAKBのような人気アイドルグループのメンバーです。

彼女はとても努力家で責任感が強い。

でも芸能界は厳しい・・・彼女は時代の波においやられようとしていていました。

精神的なバランスを崩していく亜希子。

知名度があがるほど、無責任な言葉や残酷な視線にさらされていく。

どれほど応援する人がいても、一部の心無い言葉に傷ついてしまう。

 

この本で印象的だったのは、名前や顔を持たない、傷つける言葉を簡単に吐く人たちの無自覚さと、羨望、悪意や嘲笑の中でボロボロに傷ついてしまう、明るいスポットを当てられた人たち。

心の傷の痛みのやり場がなく、自傷に走ってしまう。

立場は違えど心に傷を持っている巧もまた、刺青を重ねることによって体に痛みを与えていきます。

 

加藤さんも傷を隠しながら笑っている人を間近で見ていたのかな?それとも自分自身が?

 

自分の環境に対して不満を抱えた人のはけ口にされているのではと思うようなバッシングやプライバシーの侵害も、有名人ということで当たり前にされているようなところありますよね。


この話の中で、偶然の出来事から一緒に逃亡することになった亜希子と巧ですが、傷ついたもの同士が一緒に過ごすことでいつの間にか癒しあう・・。

二人が「再生」していくところに希望がありました。

安易に「恋愛」にならないのがよかったです。

傘をもたない蟻たちは 

傘をもたない蟻たちは

傘をもたない蟻たちは

 

加藤さん初めての短編集
「染色」「Undress」「恋愛小説(仮)」「イガヌの雨」「インターセプト」「にべもなく、よるべもなく」の6編。

美大生やサラリーマン、小説家、女子学生、自信家の男、男子中学生が主人公の物語。

 

正直、この本が一番びっくりしました。

今までは芸能界をモチーフにしたものが多かったのですが、この短編集の主人公は様々です。

話の内容もそれぞれ、全く違う。

どれも面白くて、ベテランの小説家が書いたんじゃないかと(いや加藤さんはもう立派な小説家さんですが)思うほどの読み応えのある1冊でした。

 

むしろ芸能人でありあのルックスだから、それが評価にマイナスに作用してしまうのではないか?と思うほど・・。

で、この小説では今まではあまり出てこなかった性表現もあり、しかもけっこう生々しい。

ジャニーズ事務所、大丈夫なんだ・・・?と思いましたね。

 

中でも印象に残った2編。

「Undress」は脱サラしたサラリーマンの話。

自身と希望に溢れた再スタートのはずだったのに・・・どんでん返しにはびっくりしました!
うまいとしか言いようがない。

「イガヌの雨」は、イガヌという謎の食べ物に夢中になる周囲と、頑ななほどに食べない主義のお祖父さんとの間で葛藤する女子高生の話。

ちょっとSF的で、今ままでで一番違う印象でした。

 

今までは繊細な内面を抱えた主人公が多かったんですが、この短編集はちょっとミステリー要素が加わって、書くものの幅が広がったような印象を受けました。

 それと、アートや心理学、広告代理店など、色々なジャンルの知識がすごい・・・。

 

加藤さんは他にも「Burn」

Burn.-バーン- (角川文庫)

Burn.-バーン- (角川文庫)

 

 

「チュベローズで待ってる」を執筆しています。

 

「チュベローズで待ってる」は2年半ぶりの新作だったらしいのですが、それにしてもこれだけ多くの小説を短期間に出すのはたぶん小説家だけの活動だとしてもなかなか難しいのでは・・・。

才能が溢れているんですね。

 

これからも、常に新作をチェックしていきたいです。

 

suisa.hatenablog.com

 

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