プロフェッショナル 〜仕事の流儀〜 宇多田ヒカル スペシャル
先日、NHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」で宇多田ヒカルスペシャルが放送されていました。
通算7枚目のアルバム「初恋」のリリース記念なのでしょうか。
収録曲の製作の過程と裏側まで見せるという、驚きの内容でした。
宇多田さんの曲作り
場所はロンドンのスタジオ・・・
ミュージシャン、オーケストラのメンバー、そしてたくさんのスタッフに囲まれながら、英語でイメージを伝えながらレコーディングの指揮をとる宇多田さん。
アルバムタイトルにもなっている「初恋」の曲のレコーディングで、ピアノ、ドラム、ベースの演奏がどうもしっくりこない。
さんざん悩んで、ドラムを強めにしたバージョンを聴く。
これはこれでアリ。
・・・でも何かイメージが違う。
そして彼女はドラムとベースをバッサリなくしました。
彼らも練習しただろうし、演奏が悪いわけじゃない。
でも、彼女自身の持っていた曲のイメージに合わなかった。
妥協を許さないプロの世界・・・。
たくさんの才能ある人たちを動かして、必要な物を足したり不必要な物を削ったり。
そうやって曲が出来上がっていく。
番組の途中、曲作りのため自宅のデスクで一人思い悩む宇多田さんの姿。
なかなか決まらない歌詩の参考にしようと思ったのか、ナボコフの「青い炎」を読み始め・・・泣きだしました。
宇多田さんはこうやって泣いた時も「なぜ私は泣いているんだろう?」と冷静に考えているんだそうです。
曲作りを始めた最初の頃は、自分の気持ちをすくい上げるような感じ。
しかし、徐々に自分の内面に潜り込んでいくような気持ちで作っていくように・・・。
そこには、ただひたすら自分自身に向き合う、孤独な姿。
自分でも蓋をしておきたい辛い記憶や感情も、自ら開けなくてははいけない。
「(曲を作るのに)感情のエネルギーの消費が激しい」と言っていて・・・
まるでパンドラの箱みたいだなと思いました。
でも、彼女は苦しみながら、何度も傷つきながら、丹念に感情を精査して言葉やメロディーを紡ぎ出していく。
「Ghost(仮タイトル)」
中でも宇多田さんが相当悩んでいた曲が、「Ghost」と仮タイトルをつけられた曲。
これは前のアルバム「Fantôme」の時から構想していた、3年がかりの曲で、どうしてもピッタリくる詩が思いつかなくて持ち越してしまっているのだそうです。
でもまだ悩んでいるうちに、レコーディングになってしまった。
メロディーは他のアーティストに委ねることで出来上がったのだけど、やはり詩が間に合わなかった。
・・・でも、帰国後とうとう完成。
その曲は「夕凪」というタイトルに変わっていました。
亡くなったお母さんのお骨を抱きながら海を見ているような・・・。
「すべてが変わり続ける」ということが、「変わらない永遠の法則」
というような、とても大きなテーマの曲。
途中、ナボコフの詩の朗読にしようかと悩んだというけど、やっぱり宇多田さん自身の言葉で歌って欲しかった。
印象に残った言葉
音楽プロデューサーのお父さんと歌手だったお母さん。
その二人に連れられてスタジオの中でずっと過ごした宇多田さんの、子供の頃のどうにもならない気持ち。
そんなある日、お母さん(藤圭子)に歌うことを勧められます。
宇多田さんは「音楽なら自分自身だけの世界が作れる」と気がついたんですね。
そしてたちまち、大ヒット歌手になり、目まぐるしい日々が始まる。
どんどん消費される曲。
その激流から一度身を離す決意をしたことがすごいなと思います。
真実とか安息とか救済とか 他者の中にないじゃないですか。
環境は自分ではどうにもできないけど
自分一人でもどうにかできることってなると
私には音楽がある。
「真実」はどうしたらそこに触れられるんだ?と ・・・
自分以外の世界にも人にもない。
だから自分の中に見いだすしかないと思う。
宇多田さんは私よりずいぶん若いのですが、二度の離婚、そして母と衝撃的な永遠の別れを経験しています。
身を引き裂かれるような経験を何度も乗り越えてきた宇多田さんだからこそ、語られる言葉に重さを感じました。
宇多田さんが内面深く探求していったその先に、普遍的な真理がある。
ミクロの中にこそマクロがあるような・・・。
だからこそ、皆の心に響く曲ができるんだと思いました。
この番組はすごく良かったです。
そして「初恋」のアルバム、もう購入していた曲が何曲もあったんですが、この番組を見て購入しました。
すでにヘビーローーテーションです。
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